表面ナノ構造の磁性

磁性に関係するテーマもやっています

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Since 2007~

Description

ナノ構造の近藤効果

近藤効果は南谷が博士課程のころから、あれこれやっているテーマです。 IBMの走査トンネル顕微鏡(STM)グループがやっていた表面の磁性原子をつかったQuantum mirageとかの 映える研究を見て、よさげだと思ったのがきっかけです。 近藤効果は教科書も記述が難しくて(たぶん自分の理解力のせい)「まるでわからん」期間が結構あって、 半年ぐらい2不純物系に拡張したときの摂動展開+非平衡グリーン関数法でトンネル電流を出すのに費やしました。 その後、当時の指導教官にもっと高精度な計算をするように言われ、高次の摂動展開であれこれするのは、 自分の注意力と腕力では無理だと思ったので、テクった数値計算に移行することにしました。 調べていくと「数値くりこみ群」という、なんか惹きつけられるキーワードに出くわしたのと、 この方法だと不純物問題でスペクトル関数出すなら精度最強とのことだったので、 じゃあこれしようと決めました。 決めたはいいものの、研究室に数値くりこみ群をやっている人はおらず、当時はオープンソース文化も今ほどではなかったので、 何一つわからん状態からチマチマと自力でコードを作ることになりました。 物性研究に載っていた服部さんの解説を読んだり、同年代の阪大三宅研・川上研の人たちにちょいちょい話を聞かせてもらいつつ、 車輪の再実装に励んでました。研究としての効率は悪かったですが、コーディング関係の技術の習得には良かったです。 博士課程が終わることにようやく物理量がまともに計算できて、トンネル電流やその微分を、 近藤効果や量子干渉を入れ込んで計算するコードができました。 近藤効果は通常、磁場下では抑制されるのですが、2不純物系だとパリティ自由度とのあわせ技で磁場下で近藤効果が促進されるという結果も出たので、無事学位が取れました。


表面の近藤効果+STM実験の解析のような話を物理学会で発表していたら、 国内でちょうどそれに関係する実験をしていたグループ(当時の東大新領域 川合・高木研)が興味を持ってくれて、 共同研究をすることになりました。そこでは磁性をもった分子での近藤効果を観測していて、 聞いてみるとちょっとした吸着構造の違いで近藤効果が出たり出なかったり、随分奇妙な振る舞いがあるので面白いと思いました。 分子のなにがそんな変な振る舞いを出しているのかを第一原理計算やら数値くりこみ群やらで解析したところ、 4回対称性で出てくる軌道縮退で、SU(4)近藤効果が出ているんではないか、という結論になりました。 磁気異方性などを考えると厳密には真のSU(4)ではないかもしれないですが、 少なくとも観測できるエネルギーの範囲では、これで説明できると思っています。


磁気異方性と近藤効果の競合については、そのあと気になったので、モデル計算してみたり、 実験側もSTM探針を分子にグイグイ近づけながら測定するという実験が進んだりしました。 分子に探針が近づくと分子の一部が引き上げられて、金属との相互作用が弱まります。 そうすると磁性分子が本来持っている磁気異方性のほうが支配的になってきます。 磁気異方性が支配的だと、エネルギー的に近い準位が基底状態近くにいくつかあることで、 非弾性トンネル過程によるスピン励起が起きるようになります。 近藤効果と非弾性スピン励起では観測されるスペクトル形状が違うので、 スペクトルの変化を追えば、近藤1重項の基底状態と磁気異方性が支配的な基底状態の 入れ替わりを見れるはずで、実際そうなります。 実験結果とこういったモデルを結びつけるために、近藤効果と磁気異方性の両方があるときの 非弾性トンネル電流の計算とかに苦戦しました。 最終的に動的磁化率の情報と組み合わせるとよいのがわかったのですが、 それの詳しい話はすべてサプリメントに押し込んでしまいました。


分子の近藤効果の研究を進める中で数値くりこみ群のコードは何回か改修し、 MPI+openMPハイブリッド並列にし、最終的には、みずほ情報総研さんにチューニングもしてもらいました。 いろんなモデルを柔軟に扱えるようにするためにインプットファイル生成用の、 第二量子化形式のハミルトニアンを記述して、その対角化とかを行えるインターフェース用のパッケージも作ったんですが、 当時、身内が詳しかったのがJava言語だったこともあって、なぜかJavaで作ってしまい、 かといってJavaでパッケージ整備する技術が自分にはないので、他の人が使うには厄介な状態になっていて公開しにくい状況です。 Sympyの中に似たような機能あって簡単に作り直せないかなと思ったのですが、 spinfull Fermionをうまく扱えるのはないっぽいので、pythonで自作しなおしてもいいかなとも思ってます。 ただ、すでにTRIQSとかもあるし、 労力をつぎ込むかどうかがなかなか悩みどころです。 あれこれ改修する意欲の湧く、数値くりこみ群の目先の変わった応用先を探したいところです。